ここ最近のニュースとして、囲碁の世界王者とGoogleのディープマインド社が開発した「アルファ碁」の戦いが注目を集めています。結果的には機械が人間を凌駕している事が照明されたわけですが、本書のテーマは機械と将棋です。ニコニコ動画の人気コンテンツである「電王戦」を題材に、将棋の人口知能を開発する技術者と棋士たちの戦いを追ったルポです。


巷では、羽生善治さんの挑戦を望む声が多いようですが、本書がテーマとする事は、どちらかと言えば棋士の戦いを描くというよりも、将棋ソフトを開発する技術者に焦点が当たっている気がします。いかに強い将棋ソフトを開発するのか。そこにはロマンがあって、理想がある。

決して、将棋のプロでもないプログラマーが人生を捧げて開発に専念したシ将棋ソフトとの戦い。これが非常に面白いのです。タイトル通りにルポですね。一部の将棋ファンからは「機械と人間は違う」とか「対戦中に機械をアップデートする事は反則ではないか?」といった批判があったようです。機械が人間を超えると言うとターミネーター的なイメージであったり、専門用語で言うなら「シンギュラリティ」つまり機械が人間を超える悪い印象があります。

でも本書での人口知能は人間が開発したものであって、人間が精魂込めて作ったもの。それはある種の作品だと言えます。本書にも書かれていますが、将棋ソフトは一つではありせん。人間との戦い以前に機械同士の戦いがあって、そこから選抜されたソフトがプロの棋士と戦う。その源流を辿ると数十年前。それこそファミコン時代からあって。当時はプロはおろか素人にすら勝てる力は無かった。本書に掲載されている調査によれば、多くの棋士が2010年代から2020年代までには機械が人間を超える(羽生さんは2015年頃と予想していそうです。)一部の棋士の中には機械は人間を超えないという意見もあったそうですが、1990年代にIBMが開発した人口知能ディープ・ブルーが当時最強を誇るチェスの名手カスパロ氏を破ったニュースは衝撃的だったそうです。

チェスと将棋はルール的には殆ど同じですが、大きく違う点が敵のコマを自分のコマとして使える点です。これによって想定される手数は無数に広がっていく。これがチェスに比べて将棋の世界では人間が優位だった理由です。しかし、コンピューターの劇的な進化と低価格化によって状況は一変してくる。市販れている普通のノートパソコンで作られた将棋ソフトがアマチュアのトップを凌駕し、プロに挑もうとする。その理由として、コンピューターの進化によって予想できる手数の数が圧倒的に増えた。羽生さんは著書「大局観」で、実は棋士は全ての手を予想しているのではなく、限られた中から最適な一手を選んで打っている。実は読んでいる手数はそれほど多くないという事を明かしていますが、逆にコンピューターは全ての手を予想して機械的に最適な手を打ってくる。

本書を読むと2つの意見を感じると思います。

一つ目は機械は人間を凌駕する事によって人間の時代は終わったんだという悲観論。もう一つは、機械を理解した上で人間らしい将棋を目指す事。僕はどちらかと言えば、後者に近い印象を受けました。機械に勝てない上で、プロの棋士が人間らしい戦いをする。人間が上とか機械が上ではなく、機械を理解した上でより人間らしい行動をする。

例えるなら、計算で人間は機械に勝てないけれど、それで別に悲観しているわけではない。

少し前にあるプロ棋士が休憩中に将棋ソフトでカンニングした件が話題になりましたが、そこで批判が集中する事にこそ、人はより人間らしい将棋の姿を見ているのかもしれません。

もし電王戦に羽生さんが出場したら、その出演料は4億円をくだらないそうです。

いかにプロ棋士に勝つソフトを開発するのか。人生を捧げてソフトの開発に尽力したプログラマーたちの姿は非常に面白かったです。新書なので気になる方はぜひ。

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