前著「日本国家の論点」が個人的におまり完成度の高い作品ではありませんでしたが、本作「低欲望社会」はかなりきれっきれの名作です。確かに、完全な書き下ろしでなく雑誌連載等の再編集版ですが、それでも現時点で日本が抱える問題と、今後の展望について語ってある。ここ最近の大前さんの本ではベストなのではないでしょうか?冒頭のピケティは日本の経済を分かってないという発言も刺激的です。

ちなみに、まず始めに言うと大前さんが「低欲望社会」が何なのか?というと、つまり若者が内向き下向きになっているという事ですよね。偉くもなりたくない、車も家も欲しくない。イオンで買い物をして、スマホでゲームやネットを見るだけで十分という世代の増加です。そういった内向きな姿勢を総称して大前さんは「低欲望社会」と言っているわけです。

●ピケティは日本の経済を分かってない。

簡単にピケティの主張を解説すると、rとgの不等式ですよね。つまり、労働所得よりも資本所得の方が絶えず大きい。資本主義はほっておけば格差が拡大するとい主張です。それに対して、大前さんは日本は世界に稀に見る格差の少ない国であって、ピケティは勉不足だと指摘します。その上で大前さんは、消費税増税に対しては、肯定的な見方をします。ただ、単に消費税を上げるではなく、付加価値に対して税金を取る。日本のGDPが500兆円だと仮定すれば、50兆円の税収になるわけです。

●アベノミクスショックに備えよ。

これは本書で一番面白いポイントでした。例えば、最近ではイェール大学の浜田宏一さんの本が出ていて、このブログでも書評を書いてますが、アベノミクスは100%正しくて、まだ効果が出ていないだけ。という主張をするわけです。それはそれでもの凄く具体的なわけですが、大前さんはアベノミクスを真っ向から否定するわけです。ここまで来ると凡人にはどちらが正しいのか?は定かではありません。大前さんが言うには、

第一の矢=緩和マネーが貸し出しに繋がらない。日銀の内部崩壊リスクが高まる。円安によるデメリットが大きい。
第二の矢=過度の公共事業によって、人手不足。賃金の上昇によるマイナス。財政悪化の一途。
第三の矢=財政悪化を伴うばらまき政策。特区など、お目こぼしの規制緩和ばかり。

といった主張をしています。

●経済成長はM&Aでしかできない。

これも面白かったですね。日本の企業の内部留保が200兆円で過去最大という話も聞きますが、実は使わないのではなく、使えない実態があるようです。例えば、企業にとって時価の配当3%のルールというものが存在しているそうです。今のように外国人投資家が株を大量に持っている場合、世界的な相場として、時価の3%は配当として株主に還元しなければならない。多大な犠牲を払っても内部留保を維持しなければ、何かあったときに株が一斉に売られてしまう危険性があるわけです。200兆円の内部留保があっても、100兆円はその配当のための資金であるわけです。簡単には崩せない。その上で面白い話が安倍政権が進めている法人税減税は日本企業にとってデメリットがあるという指摘です。

例えば、法人税が下がるのであれば、配当を増やせは株主が攻められてしまう。逆に法人税が高いほうが、法人税が高い方がいい。安倍政権は世界標準並みの20%台を目指すと言っているそうですが、それでも20%だったら10%台のシンガポールなどに行くだけであって意味は無いと言っています。

国際の企業の多くは「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドウィッチ」と言って税金の安い複数の国に子会社を置く事で節税対策をする事が当たり前であって、逆に言えばそれが出来ない日本の経営者は無知だと言っています。

●株価は下がる。

最近は株価が2万円を越えて、一部のエコノミストの間で3万円、4万円と言う声も聞こえますが、日本全体が少子高齢化そして低成長を考えると今の状況は不自然である。本書によれば、あのウォーレンバフェット氏が最近の報告書で昔のようにアメリカ国内で収益を上げる事は難しくなっていると言っているように、アメリカで無理なら日本ではもっと難しい。ハイパーインフレが起こるのか?という部分は素人のボクには不透明ですが、トヨタという例外を除けば円安によってメリットは薄いし、企業全体
見てもそう好業績ではない中で株価だけが上がる事は不自然にも感じます。

●以下要約。

・容積率緩和による東京の大再開発プロジェクト。
・東京一極集中が地方を救う。
・アジアの富裕層のための終の棲家。
・一定の条件と日本文化の教育を終えた外国人にはグリーンカードを発行。
・大学の数が多すぎる。今の10分の1以下でいい。
・大学に全員行く必要はない。ドイツのように職業訓練学校の充実を。
・小選挙区制は愚策、選挙はITを活用し大選挙区制へ。
・食料自給率は石油に依存する。石油の備蓄が無くなければトラクターも動かせない。オランダのように、儲かる物を大量に輸出し、小麦や米などは買い手を分散し安く仕入れる。米への補助金などありえない。農家への補助金で世界の穀物メジャーが数十社は買える。

といった事が書かれてます。一つ面白かったのが、前著まで大阪市長の橋下さんを絶賛していたのに、本書では橋下市長は迷走していると、ばっきり切られている点です。まぁ大前さんにとってその程度の扱いだったのかもしれませんね。ただ、あいからず大前さんは道州制論者である事は間違いありません。前著に比べると刺激的ですし、大前ファンの方は買って損は無いと思います。
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